教育のIT化でストレスを受けやすい子供のタイプ
( himawariinさんによる写真ACからの写真)
高度情報化社会の現代、ほとんどの人がIT化に適応しつつあります。今やITが使いこなせないと、職場でも労働生産性を問われる時代になりました。当然ながら家庭内でもIT機器はすっかり定着し、今般のCOVID-19の問題により、とうとう日本も教育の完全(多部分?)IT化を一時的また暫定的に迫られています。
そんな中で、多くの子供たちが大人の予想を反して意外にもスムースにIT機器を使いこなせているのには驚かされます。小さな頃から日常的にITに触れて育った現代の子供たちは、大人を彷彿とさせるIT適応能力を知らず知らずのうちに育んでいたのですね。
しかし、その子供たちが学ぶ日本の教育現場は違っていたようです。昨日までアナログだった教育現場が、今日からいきなり完全なIT化!と言われると、そのスピード感に辟易する子供にも少なからずいます。ゲームや遊びではIT機器が得意でも、学習の仕方はアナログが心地いい、そんな子供もいて、子供にはそれぞれ違った性格と個性があることを無視できません。
価値観も突然に大きく一変
急激な変化が生じたのは教育環境だけではありませんでした。価値観にも大きく影響を与えています。ゲームやIT機器ばかり触っていた室内好きなITオタクな子供は、子供の理想の姿としては、これまではスポーツや外遊びが得意な「子供らしい子供」の二番手に準ずる評価を受けがちでした。ITキッズは、外で遊んだり友達との交流を面倒に思う消極的な傾向にあり(一部です)、本来の子供らしさを欠いているのではと考えられていたのです。一方、ITに傾倒せず、友達と外で遊び、スポーツに夢中になり、天真爛漫に子供らしく育った子供は、本来の理想的な子供らしさを備えて育った子供として親子ともに評価されたものです。結果、バーチャル環境ITキッズは常に公式には二番手、自然やフィジカルな現実との交流が子供らしさの優良児と見られてきたのです。(どちらも大切な学びなのですが。)
しかしCOVID-19の対策時代を迎えた今日、環境適応力という点で評価が逆転しつつあります。天真爛漫な元気さがこの状況下では逆に家庭内で制御不可能なストレス要因とされ、「ゲーム機器はダメ」と言ってきた親たちには矛盾を引き起こす原因と化してしまいました。一方ITオタク化した万年次席保守の内的な子供が今では、高度複雑化したオンライン授業に悠々と適応し、模範優良選手となったのです。自分で学んでくれるITキッズは大人には制御可能な存在、扱いやすい子供で在宅ワークにも集中できるというものです。
とはいえ、社会の望む通りITを切り離して育てられた子供にしてみたら、たまったものではありませんね。価値観がこんなにも極端に翻される瞬間を経験し、子供たちはそれを適応という形で乗り越えていかなければならないのです。
誰にものしかかる適応のストレス
突然のIT化はこのように誰に対しても有無を言わせず、完全なるIT生活を強要しています。しかしながら注意しなければいけないのは、この適応の強要は子供らしい外交的な子供にも、ITが得意な内向的な子供にも、いずれどちらにもストレスを引き起こすということです。産業心理学の分野では、人間と機械は、どちらに比重が偏り過ぎてもストレスを引き起こすという研究がこれまで長くされてきました。人と機械がうまく付き合っていくためには、人が、人と機械の得手不得手を良く理解し、機械に使われる(依存する)のでく、機械をうまく活用する精神を鍛えていく必要があるのです。
完全IT化への変化適応ストレスをためやすい子供のタイプ
このようにIT化とストレスの関係は今日始まったトピックではありません。職場にITが持ち込まれた数十年前から、IT適応がもたらす人の心理的影響は研究が進んできているのです。ここでは、これまでにわかっている職場でのIT化によるストレス研究結果をもとに、予測されうる「ストレスを受けやすい子供のタイプ」をリスト化してみます。
1 せっかちな子供
2 完璧主義な子供
3 責任感がやたらに強い子供
4 心配性な子供
5 人に相談が苦手な子供
6 負けず嫌いな子供
1 せっかちな子供
せっかちな子供は自分のペースを環境に合わせることが苦手です。とにかく早く進めたい、終わらせたい気持ちが強く、それがうまくいかないとイライラを引き起こします。今回の授業のIT化には様々な新たな複雑なスキルを要求されることが多々ありますが、それがスムースにいかないと怒りを生じます。
● 子供の怒りのコントロールはこちらから
2 完璧主義な子供
なんでも完璧に、抜け目なくやりたがる子供はストレスを抱えやすいと言われます。完璧主義な子供は、これまでの定着した学習方法を捨てることが何より苦手です。自分の中で厳しいルール(「〜すべき」)があり、自分に、時には他人にもそれを強います。そこに強く固執するあまり、環境と自分との適応がうまくいかずストレスになり、不完全な状態が生じたときに自己嫌悪したり他人を責め、状況に苛立ち、結果、意欲の喪失を感じます。
● 「〜すべき」にとらわれ過ぎない生き方 はこちら
3 責任感が強い子供
これまでの環境で要領よく効率よく乗り切ってきた子供には、親や教師から一目置かれた強い期待を常に感じ取っている子供もいます。「この子なら・君ならきっと期待に答えてくれる」、そんな期待は心理学的にも子供の意欲を高めることが知られています。このような子供は、親や教師の期待に応えることを糧に成長をし続けてやりがいを得てきました。(ピグマリオン効果)。いわゆる「褒められて育った子供」の中には親の期待に応えることに責任感を持つ子供がいます。しかし、学習方法の変化により異なる能力を同時に求められるようになり相手を落胆させたり、そこに新たな劣等感が生じた時、人からの期待が過重なプレッシャーに変わることがあります。
● ピグマリオン効果はこちらから
4 心配・不安性の子供
心配性、また不安を抱えやすい傾向の子供は、周囲との関わりを失った環境では心配や不安がどんどんと増大します。比較対象がいないだけに、自分だけが劣っているように思うようになり、徐々に追い詰められていきます。教師からの評価が気になり、なんどもなんども提出物を見直したり、課題のリストを確認します。この確認行為で疲れ切ってしまいます。また、見えない周囲への不安は次第に増大し、学校がいざ再開した際に投稿することに恐怖を感じたりします。
5 人に弱みを見せられない子供
他人に相談することや弱みを見せることができない子供は、IT化された環境においてより内向的になっていきます。人の悩みは大抵他人に話すことで解消する「カタルシス効果」が得られることは知られています。しかし、人に相談する、教えてもらうことが苦手な子供は自分の中にストレスを鬱々と溜め込みがちです。他人と異なる意見を交わし合うことに不慣れなために、自分の物差しだけで自分の尺度を決め、落ち込んだり苛立ったりしていきます。多様な価値観や人との違いに慣れない日本人には要注意な傾向です。
● カタルシス効果とは こちらから
6 負けず嫌いな子供
負けず嫌いな子供は、ビジネスでもスポーツでも有能プレーヤーになるには必須な素質かもしれません。しかし、ビジネスやスポーツの頂点に立つには、長期にわたる多大な経験と苦境を経験し、強い精神力を養う訓練と時間が必要です。昨日今日突然降ってきた新たな学習環境での適応に苦しむ多くの子供には、負けず嫌いの性格が子供を追い詰めることもあります。「あの子は自分よりうまくやっている」、「この子は自分より恵まれた学習環境がある」、そんな苛立ちがストレスを引き起こしていきます。他人が自分より優れていくと焦りと悔しさに襲われ、視野を狭め非現実的な妄想も引き起こしかねません。 いわゆるマウンティグと言われる言動も、負けず嫌いな傾向が関わっています。強い自己顕示欲と承認欲求により、自分を現実よりも大きく見せたい気持ちが無意識に働きます。そもそも負けず嫌いな傾向を持った人が、現実とのギャップを隠しながら言葉巧みに自分の優位性を引き立たせるこの行為は、本人は気がつかないことが多く、負けたくない、自分を過度に大きく見せる本能が相手に不快感を与え、自ずと友人関係を壊しかねない事象となっています。
● マウンティングの心理はこちらから
「楽に考えよう」—子供に力の抜き時を教えてあげる
上記の6つの性格は、決して常に否定的なものではありません。むしろ仕事や勉強など競争社会においては、高い能力と生産性を引き出すためになくてはならない要素です。しかしならが、その傾向が強すぎたり自分で意識できずに強く出しすぎると、高い頻度で人間関係において日々の生活でストレスを経験することになります。状況を客観的に把握できていて、さらに環境が自分の力でコントロールできる状況においては、「上記のこの部分をこう強化しよう」と目標立てて自己研磨することはいいかもしれませんが、闇雲に自分を追い込むような思考を生育期に親や教師が過度に強化してしまうと、今後子供が苦しむこともあります。そっと、「楽に考えようよ。」「今は力抜いていいんだよ」と力の抜き方を教えてあげることが大切です。
グローバルウェルビーイング(オランダ)
淵上美恵
www.globalwellbeing.nl
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